連載コラム「食物アレルゲン編」

第6回 「食物アレルギー表示で食品事業者に求められていること」

前回のコラムでは「食物アレルギー表示制度」の創設の経緯をお話させていただきました。第6回目は、現状の「食物アレルギー表示制度」に対する食物アレルギー患者さんの生の声を取り上げ、食品事業者に求められていることを考えたいと思います。

「食物アレルギー患者さんの声」

2022年3月に消費者庁がまとめた「食物アレルギー表示制度に関する実態調査業務調査報告書(出典※1)」中の「食物アレルギー患者さんの声」を見てみましょう。

(食物アレルギー患者さんの声 ~抜粋~)
  • 現状の食物アレルギー表示制度の国民への周知が不足している。
  • 食物アレルギー表示は一括表示ではなく、個別表示してほしい。
  • 「○○不使用」、「○○フリー」の正確な違いを理解できる人が少ないと 思われ、紛らわしいと思う(→豆知識コーナーで解説します)。
  • 容器包装済みの商品だけでなく、「外食」や「容器包装されていない中食(※)」 等、全ての食品に食物アレルギー表示を義務付けてほしい。
  • 食物アレルギー表示の上に値札シールが貼られており“一部に大豆、乳を含む” の表示が隠れており、誤食しそうになった。
  • 食物アレルゲン(28 品目中)の表記があれば、子どもが自分で確認すること ができて、助かっている。
  • ※中食(なかしょく)
    中食とは、コンビニエンスストアで販売されている弁当や肉まん、スーパーやデパ地下で販売されているお惣菜を指し、「持ち帰ってすぐ食べられる日持ちしない食品」を指します。
    以上のように、食物アレルギー表示に関する問題が提起されています。そこで食品事業者に求められていること、対応に必要なことを考えたいと思います。

    「食物アレルギー表示で食品事業者に求められていること」

    01 「正確で分かりやすい表示」

    食物アレルギーの個別表示の要望が特に多く、食べられる選択肢を広げる取り組みが必要。

    その商品が“食べられるかどうかの判断”は食物アレルギー表示に頼られており、特に食物アレルギーの個別表示の推進が必要です。では、なぜ「個別表示」が求められているのでしょうか?以下の“醤油煎餅の「個別表示」と「一括表示」”を例にその理由を考えてみたいと思います。

    個別表示[米、加工でんぷん、醤油(小麦を含む)、砂糖]
    一括表示[米、加工でんぷん、醤油、砂糖(一部に小麦を含む)
    食物アレルギーの個別表示が求められる理由
    小麦アレルギーの方も、醤油や味噌に含まれる小麦は食べられる方が多いですが、一括表示では小麦を含む原料が分からないため、“食べない”選択をせざるを得ません。
    また、お弁当の場合、個別表示であれば、どのおかずにアレルゲンが含まれるか分かるため、食べられるおかずが選択できます。
    なお、表示スペースには限りがあるため一括表示が認められていますが、例えばパッケージにQRコードを付け、食物アレルギー患者さんが必要な情報を取得しやすくする仕組み作りも必要と思われます。
    イラスト

    02 「顧客への正確な情報提供」

    正確、且つ最新の情報提供が必要。
    お客さまがパッケージの表示情報だけでは食べられるかどうか判断がつかない場合、食品事業者へ問合せます。その際、情報提供に必要不可欠なのが「品質規格書(※)」が最新の情報に更新されていることです。 これは、発売当初の使用原料(食材)が途中で変更された場合、食物アレルギー表示内容の変更があり得るためです。

    ※品質規格書とは
    商品や原料の“カルテ”にあたり、使用されている“食物アレルゲンの種類“、”食物アレルギー表示の必要性の有無“も記載されています。

    03 「表示内容に責任を持ち続ける」

    人命に関わるため表示違反(表示ミス、意図しない混入等) は許されない。表示内容に責任を持ち続けることが必要。
    商品発売前に、製造工程や原料の規格等を十分確認したからその後も問題ない、という訳ではありません。発売後も「製造現場でのリスク管理」、「作業者の教育訓練」、「定期的な食物アレルゲン検査」等の継続が必要です。何れも手間やコストが掛かりますが、表示違反があった場合、お客さまの命を脅かしかねません。また、行政指導の対象となり、企業のイメージダウンは避けられません。

    豆知識
    「アレルゲン不使用」と「アレルゲンフリー」の違いって?
    「アレルゲン不使用」

    「アレルゲンを含まない」ことではありません!!アレルゲンを含む原料を使用せずに製造したものを指します。
    例えば「卵不使用のパン」と同じ製造室内で“卵を使用したパン”を製造していた場合”「卵混入のおそれ」が完全に否定できないためです。
    なお、「アレルゲン不使用」を表示する場合、製造工程のアレルゲン混入防止対策の徹底が求められる他、継続的な「アレルゲン検査」を行い、アレルゲンを含む可能性を常に明確化しておく必要があります。
    「アレルゲンフリー」  
     日本国内ではアレルゲン含有量が「数µg/g(数百µg/100g)未満」のものを指します(出典※2)。
    ここで、なぜアレルゲン含有量を「ゼロ(全く含まない)」と言い切らないのでしょうか??これは検査技術の進歩に伴い、アレルゲン含有量の検出下限値は下がっていきますが、「ゼロ」の証明は不可能なためです。 また国によってアレルゲンフリーの表示基準(含有量)が異なるため注意が必要です。一例として、欧米諸国の「グルテンフリー」はグルテン濃度が20ppm(2,000µg/100g)以下であれば表示可能、等が挙げられます。

    第6回のコラムでは、現状の食物アレルギー表示制度の問題点を見てきました。 “食物アレルギー”は国際的にも大きな社会問題となってきており、食品事業者が取り組むべき重要な課題の一つと言っても過言ではありません。自社の利益だけを優先するのではなく、環境問題や社会全体の問題に対しても積極的に取り組む姿勢は、長期的には”サスティナブル(持続可能)な社会”に寄与する意味でも重要です。近い将来、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の実現することを、心より願ってやみません。


    (出典)    
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