連載コラム「農薬編」

第2回「私たちの生活と農薬の関わりについて」

連載コラム第1回目は、「農薬」と「ポジティブリスト制度」をテーマとしてお話しさせていただきました。少々堅苦しい内容でしたが「農薬」への理解を深めるために避けて通れない内容のため取り上げさせていただきました。第2回目は、私たちの生活と密接な関りを持つ農薬についてお話ししたいと思います。

「私たちの生活に身近な農薬」

一括りに農薬といっても、え?それも農薬なの?と思う成分もあります。
2021年4月1日現在、日本国内で登録されている農薬の有効成分はのべ481種類あります。その中には、前回お話しした“醸造酢(用途:殺菌剤)”や“なたね油(用途:殺菌剤)”のような食品成分や、温泉成分として有名な“硫黄(用途:殺虫剤)”なども含まれています。このように日常的に名前をよく耳にする成分の他、私たちにとって身近な日用品や食品を例に挙げて、農薬の用途についてお話ししたいと思います。

蚊取り線香

~蚊取り線香~
日本の夏の風物詩「蚊取り線香」。
発売当時は除虫菊の花、茎、葉の粉末が 含まれており、有効成分として“天然ピレス ロイド類「ピレトリン」”が含まれていました。 現在では、その後開発された、合成ピレスロ イド類「アレスリン」が有効成分として用いられています。 このピレスロイド類は、昆虫類の神経系に強力に作用する一方、私たち哺乳類や鳥類には作用が弱く、速やかに体内で解毒されるため、私たちには殆ど無害です。しかし、ピレトリンの欠点として、魚類への毒性が問題視されました。問題点を改善するために開発されたのが、低魚毒性のピレスロイド類「エトフェンプロックス」、「シラフルオフェン」です。このように“農薬”も、時代と共に安全性の面でも改善が進んできています。

種なしぶどう

~種無しぶどう~
今や、デラウェアなどの種無しぶどうの栽培に欠かせない「ジベレリン」。このジベレリンは、日本人技師の黒沢英一氏が世界で初めて発見した“成長促進剤”で、農薬に分類されます。通常、植物は受粉をすることで、種が出来、実がなります。しかしジベレリンは、受粉をしなくても、ぶどうの実(子房)の生長を促すため、実(子房)が生長して大きくなる一方で、受粉をしていないため「種が作られない」仕組みです。

農薬

~除草剤「ラウンドアップ」~
私たちの生活に身近な農薬といえば、ホームセンター等で販売される除草剤「ラウンドアップ」が挙げられます。これは”グリホサート”を有効成分とする除草剤で、植物が体内で栄養素を作り出す働きを止めるため、最終的に植物は枯れてしまいます。 なお、グリホサートに関しては、2020年にニュージーランド産のはちみつから検出のニュースが記憶に新しいところです。この検出事例を受け、我が国でも、これまでは“はちみつにおけるグリホサートの残留基準値”が設定されておらず、一律基準(0.01ppm)が適用されていましたが、2021年12月17日より新たな基準値(0.05ppm)が設定されました。また、グリホサートの使用は、世界各国で規制の動きが活発化しており、今後も注視すべき成分の一つです。

このように、“農薬”は、私たちの生活の質(QOL)の向上に寄与し、豊かな実りを地球上の生命にもたらす一面もあります。 一方では、農作物を始めとする、各食品における残留農薬の違反事例が後を絶たず、問題視されている現実もあります。

(こぼれ話)
先ほど紹介した「グリホサート」は非常に水に溶けやすい性質があり、分析が難しい成分の一つです。通常、残留農薬分析は、一度に100成分以上を同時分析する「一斉分析法」を採用しますが、グリホサート分析は“専用の前処理”を行った後、個別に分析する必要があります。当社でも2010年に残留農薬の分析体制を立ち上げた当時、グリホサート分析には非常に頭を悩ませました。大変煩雑な前処理が必要なため分析に時間を要す他、分析に不要な成分を除外する処理(精製)に四苦八苦の毎日でした。その後10年以上の分析経験から蓄積してきたノウハウを生かし、当社でもグリホサート分析も受託しております。世界的にも食品中への残留が注視されている成分です。分析に関するご要望やご不明点などございましたら、是非お気軽にお問い合わせください。

さて、次回は、農薬についてさらに理解を深めるために、「農薬の光と影」というテーマで農薬の恩恵と脅威についてお話しさせていただきたいと思います。