連載コラム「農薬編」

第1回「農薬」と「ポジティブリスト制度」について

「連載コラム開始にあたって」
当コラムをご覧頂きまして誠にありがとうございます。
当社でも、分析を通じてお客さまが取り扱われる食品等の品質管理のお手伝いをさせていただいておりますが、とりわけ分析要望を頂く機会が多いのが“残留農薬分析”です。 “連載コラム「農薬編」”では、農薬はなぜ使うのか?残留農薬分析はなぜ行うのか?等、農薬や残留農薬分析についてご理解頂くきっかけとなれば幸いです。どうぞ最後までごゆっくりご覧ください。
さて、早速本編に入っていきたいと思います。連載コラム「農薬編」第1回目は、「農薬」と「ポジティブリスト制度」について、と題し、「農薬とは?」、「農薬を規制する法律」、「ポジティブリスト制度」についてお話したいと思います。

01 「農薬とは?」(※1)

農薬とは“害虫退治や雑草を枯らすための薬、植物の生長を コントロール(生長促進と生長抑制の両方)する薬等の総称”
(さらに詳しく ⇒ 農林水産省「農薬取締法」の第一章総則 第二条

日本国内では農薬の有効成分として「562成分」が登録されています(2021年12月31日現在)。その中には食品成分としてよく知られている「醸造酢(用途:殺菌剤)」や「なたね油(用途:殺菌剤)」の他、「硫黄(用途:殺虫剤)」等も”登録されています。

02 「農薬を規制する法律」(※2)

私たちの生活は様々な法律に守られています。身近な法律として「民法」、「道路交通法」などがありますが、農薬にも同様に、“農薬の法律”があります。
それが「農薬取締法」です。

「農薬取締法」の概略について簡単に説明していきましょう。

・法律の目的は、安全性が確認されていない農薬が誤って販売、使用されるのを防ぐこと、  農薬の品質保持と向上を図ること、ひいては食糧の増産を推進することです。
・1948年(昭和23年)に制定以降、3回の大改正を経ており、直近の2002年の改正では無許可の農薬が輸入、製造、販売、使用されないように規制、罰則が強化されました。
・「新しく開発された農薬」や「ジェネリック農薬」を輸入、製造、販売、使用す るためには、農薬取締法に基づき、農林水産大臣による登録審査を経て、許可を得なければなりません。
・農薬が登録審査される際、農林水産大臣が”農薬残留濃度基準”(審査される農薬の「毒性」や「環境への影響」を基に環境大臣が定めた指標)を考慮して審査が行われます。

(農薬取締法による安全性の確保)
現在、許可を得て、製造、販売、使用されている農薬は、安全性や環境影響について一定の基準をクリアしており、“指定の使用量、使用方法を守れば安全”といえます。
 

最後に、残留農薬を語る上で欠かせない「ポジティブリスト制度」について、お話したいと思います。

03 ポジティブリスト制度

本制度は「農薬取締法」ではなく、「食品衛生法」に定められており、2003年の食品衛生法改正に伴い導入されました。「ポジティブリスト制度」では、食品と農薬成分の組み合わせ毎に残留基準が定められ、残留基準を超過していない食品は販売可能です。さらに残留基準が定められていない農薬は、一律基準(=人の健康を損なう恐れのない量。0.01ppm)を超過しなければ食品として販売可能です。

「ポジティブリスト制度」導入前の「ネガティブリスト制度」とは? 「ポジティブリスト制度」が導入される以前にわが国で食品中の残留農薬を規制していた制度は「ネガティブリスト制度」でした。この制度では残留基準が設定された農薬のみが規制対象でした。そのため、残留基準が設定されていない農薬が食品から検出されたとしても、“直ちに人の健康を損なうおそれがない”場合、“検出量に関わらず”、食品として販売可能でした。そのため、規制が行き届かないケースもあり食の安全性に不安がありました。

 食の安全性を確保するため新制度(ポジティブリスト制度)へ 移行されました。

(解説)
「ポジティブリスト制度」と「ネガティブリスト制度」について “ポジティブリスト”という概念は世界の法制度で広く使われており、原則は全て禁止・規制の状態において、例外的に許される事柄(やっていい事)を設ける制度です。この「許される事項」を示したのが、“ポジティブリスト”です(下図参照)。 一方ポジティブリストの反対語が「ネガティブリスト」です。(下図参照)
ポジティブリスト制度とネガティブリスト制度
 

まとめ
「ポジティブリスト制度」
原則、農薬の残留は全て禁止する中で、残留を容認する農薬を リスト化して残留農薬を規制しています = 全ての範囲を規制
「ネガティブリスト制度(旧制度)」
原則、農薬の残留規制がない中で、残留してはならない農薬を リスト化して規制しています = 規制範囲が狭い

第1回目のコラムは「農薬」と「ポジティブリスト制度」をテーマにお話しをさせていただきました。農薬取締法、ポジティブリスト制度が私たちの食の安全性を確保しているのですね。さて、次回は、農薬について理解を深めるために、私たちの生活に身近な農薬についてお話させていただきたいと思います。

(出典)    
  1. 農林水産省「農薬取締法」より
  2. 農薬工業会ホームページより